七夕



年に一度きりの逢瀬だった。
たまたま親友と恩師の命日が、星祭りの付近だったせいもあって、定着した儀式=B
こんなことが、故人への追悼になるとは到底思えないが、サービスと私は会えば必ず、互いを貪り合った。
心の虚を肉体で埋めるかのように求め、愛する人の形代として、互いを利用した。やがて、己の犯した罪の確認行為となり、時に凶暴な欲望で相手を引き裂き、ある一時期は、ただの惰性のように体を重ねながら、私達の関係は、成熟と頽廃の狭間を揺れ動いた。
しかしここ数年は、かつてなかった程の優しい感情が、私達を結び付けていた。
決して口には出さないが、私達はどんな形であれ、互いを愛していたような気がする。
「また今年も…って感じだな」
私達が連れ立って、墓参りをすることはない。ただ、親友の好きだった酒を飲み、肴をつまみ、恩師の遺したレコードをかけ、文学を語った。次第に薄れゆく面影をなぞるように、思い出話を繰り返した。
そして終いには、どちらから誘うでもなく、セックスをした。彼はいつも積極的に私を征服したがったし、私はその情熱に流されるまま、サービスに体を開いた。
無論、サービスの美貌は抗いがたい魅力だったから、その後で私は彼を抱かずにはいられないのだが。
「ん…どうした?」
舌と口で私の欲望を煽りながら、サービスが問いかけてくる。
「疲れてるんですよ、」
私の太腿にかかる、透き通るようなプラチナブロンド。確かに最初のうちは、サービスの髪に恩師の髪を、サービスの隻眼に恩師の眼差しを、重ねていたような気がする。
だが、今はどうだろう。
「髪…ブロンドといっても、それぞれですね。あなた方のことですが」
「こら、」
サービスは下肢への愛撫を中断すると、隣りに横たわった。
枕元に頬杖をついて、今度は私の瞼を執拗に舌で嬲る。そこが性感帯だと知っているからだ。
咽喉がひりひりする程の刺激。サービスの長い指が、私の胸元を弄ぶ。
「こんな時くらい、僕のことだけ考えたらどうなんだ?」
閉じられた瞼をスクリーンに、眩しくハニーブロンドが踊った。
「…最近では、ルーザー様のお顔すら、定かに思い出せなくなりました」
「違うだろ?」
鼻梁に軽く歯を立てられ、私は痛みに顔を顰めた。サービスがザマミロ、と言わんばかりに嘲う。
仕返しに、花びらのような唇を指先で抉じ開けると、サービスは私の二本の指を口中に導き入れ、愛しげに舌を這わせてくる。
上目遣いの、途方もなく妖艶な表情で、
「グンマとは、寝たの?」
「まさか」
「時間の問題?」
「それもNOです。妬いてくれるんですか?」
緩慢に熱を帯びてくる、互いの体。私がサービスの腰を大きくなぞると、びくりと体を震わせた。
「うん。これで僕は、結構、お前に惚れてるんだ。知らなかったろ?」
「それは…初耳ですね」
ぼくだって、高松が大好きなんだよ?
ああ、あれは何年前の七夕だったろうか。
こうやって、年に一度の交わりにしがみ付く私は、卑怯にもグンマ様の想いから、目を背け続けている。あの方は、そんな私に当てつけるように、従兄弟同士の暴力的なセックスに溺れていった。そう、それも年に一度。
迂闊だった。まだ幼いからと侮って、よもや私達の関係を悟られてるとは、微塵も疑わなかったのだから。
今宵もグンマ様は、従弟の肉体を凶器としながら、自傷行為に耽っているのだろうか…。
「…私も、ずっとあなたを愛していたような気がします」
ふ、とサービスの眦が綻んだ。それは、魂まで奪われてしまうような、美しい微笑だった。
「今更だな、」
おそらく、互いの肉体を鏡に、過去を覗き込む不毛な行為に、二人して疲れ果てたのだ。サービスと私の20年は、断罪の日への秒読みだった。
「グンマ様を、あなたのように抱くことは出来ません」
私の心はとうの昔に、サービス、貴方に囚われていたのだから。


差し出される舌に、舌先で触れる。強く吸う。サービスの上に覆い被さりながら、
「私を愛して下さい」
「愛してるさ」
際限なく、繰り返される空言。ああ、それはすべて一夜限りの夢。不埒な私達を、夫婦星は決して結び付けはしないだろう。それでも。
それでも…






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