甘やかして、甘やかして。
私には彼のような笑顔をつくることは出来ないから――



『HAPPINESS』




サービスが戦場から帰ってきて2週間が経った。


高松は点滴のパックを替えてやりながら眠っているサービスを見下ろしていた。
よく出来た人形のような青白い顔。醜くえぐれた右目の傷は包帯に覆われている。


しかし、高松は知っている。
どんなにその傷跡が凄惨なものであるかを。


傷跡が膿んでしまわないように毎日包帯を取りかえる。そのたびに現れる傷。
それはサービスのジャンへの想いであり、聖痕とさえ言えるものだった。
実際のところ、彼らに肉体的な関わりがあったのかは高松には分からない。
しかし、少なくとも精神的なところでは彼らはお互いにお互いを必要としているよう
に見えた。


どうしてこんなふうになっちゃったんでしょうね――


あなた、無責任ですよ。
そう、ジャンに向かって高松はつぶやく。


サービスは夢うつつに覚醒し、また夢の中に帰っていく。
あんなに慕っていたルーザーにさえ無感動なまなざしで。


日、一日と弱っていく。
まるで緩慢な自殺。


そんなサービスに苛立って荒々しい口づけをしたのが昨日のこと。
サービスは驚き、抵抗した。


構っていられなかった。くいしばった唇に噛みつき、痛みで緩んだそこに舌を差し入
れた。
力をこめて高松の腕を振り払おうとするサービスの身体を傷つけないように、しかし
力強く抱き込む。
2週間の入院で体力が落ちていたのか、サービスの抵抗は徐々に弱まっていった。
それにつれて口づけも荒々しいものから甘く、優しいものになっていく。


どれだけ長いこと口づけていただろうか。


固く閉じられていた目蓋がうすく、緩やかに開いてくる。


「……高松」
ゆっくりとサービスは高松の名を呼んだ。
ようやくそこに高松がいるのに気づいたようなかすれ声で。


「おはようございます、眠り姫」
高松はサービスの右手の甲に口づけた。
サービスは事態が呑みこめないのか、鷹揚にそれを許している。


「……ジャンは」
どこか、とでも言おうとしたのだろうか。
しかし皆までは言わず、静かに泣き始めた。


片方だけの青い青いきれいな瞳で。


サービスは涙を隠そうとはしなかったが、高松は見てはいけないもののような気がし
て病室を出た。


数時間後に病室に行くと、泣きつかれたのかサービスは不自然な態勢で寝ていた。
楽に眠れるようにとベッドに横たえ、上掛けをかけてやる。



―――どうかあなたの眠りがやすらかであるように。


祈りにも似た気持ちを高松は抱く。


あの、太陽にも似た笑顔は私には出来ないから。
甘やかして、甘やかして綿のようにくるんであげよう。
せめてこの美しい人がやすらげるように。



―――たとえそれが偽りのやすらぎでだったとしても







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